プロローグ

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 男が魔王城前の広場についた時、真っ先に目に入ってきたのは、月明かりに照らされた大きな城だった。日本のような武骨で合戦に特化した実用的な城とは似ても似つかない。地球で言えばヨーロッパ、それもバロック式が一番近いだろうか。中央に屋根をとがらせた高い塔がそびえ立ち、左右は洋館のような作りになっている。  ところどころ明かりで照らされ、冷たく、ざらりとした灰色の石を見せているが、全体ははっきりと見えない。月に照らされて、輪郭りんかくが見える程度だ。けれども、照らされているところを見るだけでも、相応に凝ったつくりになっているのが分かる。例えば左の館の屋根には、狼のようなかなり大きめの彫刻ちょうこくが飾られているし、右の館の屋根にもドラゴンのような彫刻が飾られている。軽く人の身長を超えるであろうその彫刻は薄暗さによる不気味さと相まって、そのまま襲い掛かってくるのではないか。そんな根拠のない不安さえも感じさせる。  男は初めて見た彼女の住まいをぼーっと見ていたが、少ししてからクスッと笑った。こんなに装飾されて、いかにもな雰囲気を醸し出している城は好みじゃないだろうな、などと思いながら。 ――こんなもの見てる場合じゃない。あいつを殺してしまう前になんとか体を―― 「楽しそうだね、何か面白い事でもあった?」 「あぁいや、ちょっとな?」     
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