プロローグ

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 うっすらと相手の顔が見えるかどうかという程度の明かり。足元の石畳すらはっきりとした境目はわからない。  そして。 『さて』  別に示し合わせたわけでもなんでもない。互いに覚悟が決まり、発せられた声。けれどその声は重なった。二人の声に込められたのは真剣な思い。そこには過去の彼らの姿は無くて。勇者と魔王、人と魔の最高戦力としての重みを背負った二人がいた。 「昇。来た理由は分かってる。それでも聞くけど……やめる気は、無いんだね?」 「……あぁ。俺は勇者だ。昔の、お前と一緒に居た頃の俺じゃあ、無い」 「そう。でも私もおとなしくやられるわけにはいけない。貴方にも背負う人の命があるように、私にも背負う命があるから」 「あぁ、分かってる。……手加減は、いらない」 ――くそっ止まれ!止まれよ。この減らず口が!――  そう言う二人の頭上で、雲に閉ざされた月が再びその顔を覗かせ、その光を二人に降り注がせる。 「……そう、じゃあ、敢えてこう言うね」  そう言うと魔王は、その背中にヴァンパイアのような大きな羽を広げ、空中に浮かぶ。  そしてそのまますーっと空を飛んでゆき、空に浮かぶ月を背景にして、 「勇者よ。私は魔族を守る為、全身全霊をもってお前を殺す。そちらも本気でかかってこい」と。そう言った。  先に動いたのは勇者だった。     
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