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夢の中で何故森に居るのか、何故自分は幼いのか、彼女は何を言っているのか、わからないことは山ほどある。
そもそも、これだけ夢に見る少女に、僕は現実で全く見覚えがなかった。
夢の中の自分よりは年上だということはわかるが、幼い頃年上の女の子に遊んでもらった覚えもなく、小中学校の卒業アルバムを見返しても、それらしい少女の写真はなかった。
あれだけ綺麗な少女が身近にいたのだとすると、記憶の片隅に思い出が残っているのでは、といくら記憶をたどってみても思い出すことはなく、物心つく前のことなのでは、と両親に聞いてみても、二人とも首を傾げるだけだった。
夢を繰り返し見る中で、僕は次第に彼女は誰なのだろう、と考えるようになり、その疑問は日々大きくなるばかりだ。
一か月間同じ夢を見続けた僕は、今日も彼女のことを考えながら通学路を歩いていた。
夢の中で、僕は必ず少女と指切りをしている。ということは、彼女の言葉は何か約束に関わることなのだろう。
夢の中でした約束が現実でも効力を発揮するとは思っていなかったが、こうも長く続くとそれもあり得るのでは、という気持ちになってきてしまう。
毎日、毎日、僕は彼女と何の約束をしているのだろう。
そう考えながらとある交差点に差し掛かった時、僕は赤信号に足を止めた。
何気なく、反対側で信号待ちをしている人たちに視線を向けて、僕は自分の目を疑った。
夢に出てくるのと同じ格好で、あの少女が立っていた。
ノースリーブの白いワンピースに、アスファルトを素足で踏んで、彼女はいつも浮かべるいたずらっぽい笑顔で、僕を見ていた。
思わず下を向いて視線をそらし、ドッドッと早まる鼓動を必死に落ち着けた。
何度か深呼吸して顔を上げると、タイミングよく信号が青に変わった。
向こうから歩いてくる人の中にも、辺りを歩く人の中にも、既に彼女の姿は見つからなかった。
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