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鳴り響く目覚まし時計を止める。六時三十分。いつも通りの朝だ。
目覚めた瞬間から、僕はあの少女のことを考えた。
彼女が一人で去って行くのは、彼女にとって森が帰る場所だからだ。何故だか、僕はそう確信していた。
僕が森に入り込み、少女がそれを見付けて川辺まで案内してくれる。そして、何かの約束をして、僕と彼女は別れた。
おそらく、実際にあった出来事だ。
けれども僕には記憶がなく、彼女は少女のまま時が止まっている。現実的には考えられない話だが、彼女は『思い出してはいないのね』と言った。
僕が思い出すべき何かがあるはずだ。
僕は身支度を整え、朝食を食べながら、台所でお弁当を作る母に聞いた。
「母さん。僕、昔川沿いの森で遊んだことないかな」
「川沿いの森?」
「うん。川の水がすごく綺麗なところ」
「……あるわよ。小さい頃、あなた一度その川で溺れたことがあったの。まだ小さかったから、覚えてないかしら」
「溺れた?」
「ええ。意識もなくしちゃって、このまま死んじゃうんじゃないかと思ったわ。そのことがあって、あまり川には近付かなくなったのよ」
「……そう、だったっけ」
母の言葉に、僕は一生懸命記憶を遡る。
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