川辺の約束

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 母の言う通り、僕は物心ついてから川に遊びに行ったという記憶はない。  スイミングスクールには通っていたし、泳げないことはないはずなのに、川や海に遊びに行く、ということは殆ど無かったと思う。  ということは、僕が思い出すことは、僕が溺れたということなのだろうか。それと彼女に、どんな関係があるのだろうか。  「溺れる夢でも見たの?」 「え?」 「ほら、最近よく夢を見る、って言ってたから」  母が心配そうな顔で僕を見た。  「溺れてはいないよ。ただ、よく同じ場所と同じ人が出てくるから、実際にあったことなのか気になって」 「人って、この間言っていた年上の女の子?」 「そう」  すると、母は少し考えこんでからこういった。  「あなた溺れて、目が覚めた時に夢を見てたって言ったの。迷子だったけど、女の子が森の出口まで連れてきてくれたって。関係あるかはわからないけど」  森で迷子だった僕を、彼女が川辺まで案内してくれた。  ……そうだ。真っ暗な森で迷子だった僕を、彼女が連れだしてくれた。  全て、思い出した。  とりあえず学校に行かなくては、と僕は立ち上がり、食べ終わって空になった食器を流しに運び込む。  すると、隣に居た母が僕の顔を覗き込み、すっと額に手を当ててきた。     
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