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 かつん、かつんと杖の音。ゆっくりと近づいてくる、足音も。  怪我をしたほうき星、このあいだから療養中だ。  怪我のきっかけはホンの些細なもので、ヘアピンカーブを曲がり損ねたこと。  時折前のめりになりながら、それでも一歩一歩、歩くのをやめない。  わたしはほうき星が怪我をした時にたまたま近くにいて、そんな些細な縁でほうき星の手伝いをしている。救急車を呼んだのもわたしだし、そもそも星というものは地上に家を持っていることが稀なので、こういう緊急事態には誰かしらが手を貸すことが多いわけなのだけれど、まさか自分がそうなるとは。  と言ってもほうき星はスピード狂である以外は基本的に三つ揃いに身を包んだりっぱな紳士なので、手のかかることはあまりなかったのだけれど。  ――ほうき星さん、大分動けるようになりましたねえ。  わたしがそう言って笑うと、それでもほうき星はむすくれて、  ――こんなものでは星の海ではやっていけまいよ。  そう言って更にリハビリを急ごうとする。そんなに慌てても治るスピードにかわりはしないので、ゆっくりするようにと念を押しておくのだが、本人曰くそう言うわけにはいかないらしい。  ――もうすぐ七夕だからねぇ。  そんなことを言ってはにんまり笑ってみせる。  そして完治したら、わたしへの挨拶もなしにさっさと空へ帰ってしまった。いや、それを望んでいたわけではないが。  ただその日の夜、空を眺めていたら、カササギの橋が美しくできあがっていた。  どうやらほうき星、カササギの誘導員だったとみえる。
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