指輪

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 翌朝、Sさんは指輪をポケットに押し込んで登校した。学校帰りに山に寄り、指輪を元の場所に戻すつもりだった。遠回りになるが、そんなこと気にしてはいられなかった。一刻も早く関係を断ち切りたかった。  教室に入ると、昨晩起きた出来事をクラスメイトの誰にも話すことはできなかった。幽霊を見たことよりも、親と一緒に寝たという事実がバレることを恐れていた。まだ小学生とはいえ、それはオネショに匹敵する屈辱的な告白になってしまうからだ。  昼休みになるといつも通り体育館で走り回って遊び、昨日の怪奇現象の事はすっかり忘れていた。いや、忘れるために、はしゃいでいたのだ。  そして放課後になった時である。Sさんは自分のポケットをまさぐって青ざめていた。指輪は無くなっていた。どこかで落としてしまったのである。  元の場所に戻すことができなかったが、果たして大丈夫なのだろうか? 誰かが拾った可能性もあった。Sさんは不安に襲われたが、今さらどうすることもできないため、まっすぐに帰宅した。  自分の部屋に戻ると、半開きになったままのふすまを視界の端に捉えながら、謝罪の言葉を心の中で繰り返し唱えていた。  しばらくすると友人から電話がかかってきた。その内容は学校の近くで交通事故が起きたことを知らせる野次馬的な電話だった。被害者は同じ学校の生徒だった。遺体の損傷は激しく、首や手足はねじ切れそうなくらいに曲がっていたという。そして友人は最後にこう付け加えた。 「シートを被せられた死体の一部が見えたんだけど、小学生なのに指輪をはめていたよ」
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