第一話「スピルの場合」

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「声門認証、クリア。ロックを解除します。」 すると、赤いランプが緑に変わり目の前の扉が開いた。 「誰?誰かいるの?」 僕は暗闇に向かって問いかけた。 「これは失礼。初めまして、が正しいようですね、スピル。私はこのシェルターに搭載されている量子コンピュータ・Z.H.R.と申します。気兼ねなくゾハルとお呼びください。」 「ゾハル…さん?」 「コンピュータに『さん』を付けるなんて珍しい人ですね。とても興味深い。」 ─何を言っているのかあまりよく分からないけれど、悪い人じゃなさそうだった。 「ゾハルさん、僕は施設の外が見たかったんだ。お願いできる?」 「もちろん、お安い御用です。さあ、こちらへどうぞ。」 すると暗い通路の床に光の線が走った。 「…うん。今行くね。」 僕は線を辿って、ゾハルと冗談を言い合いながらシェルターの中を歩いて回った。 ─結構歩いた気がするなぁ。少し疲れてきちゃった。 「ねぇ、ゾハルさん。この線はどこまで続いているの?」 「私の部屋です。少し、スピルとお話がしたいと思いまして。」 「本当?僕もゾハルさんに会ってみたい!」 「嬉しいお言葉、ありがとうございます。さあ、もう少しで私の部屋です。」 通路の突き当りで、光の線が途切れていた。     
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