0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
第二話「ヘレンの場合」
─私がここ、米国特務機関アーネンエルベに配属されたのは、米国…いえ、旧米国軍が機能しなくなってからだった。
国境など最早無いに等しい戦況下で、米国はその大半を失ってしまった。
残るは首都機能を守るためだけに作られたシェルターのみ。私はその中で、仮初の平穏に甘えていたのかもしれない。
「あら、今日も朝早くから研究?あなたは本当に熱心ね。」
白衣を着た彼は、私が軍に属していた頃からの知り合い、ルーカスだ。
「そういうヘレンだって、毎日欠かさずここに突っ立ってるじゃないか。よく飽きないな。」
「私の仕事はあなた達を守ること。何も起きないのが一番の成果だわ。」
「そうかい。僕は、こんな鳥籠に囚われたまま死んでいくのは御免だね。」
「そうやって皮肉ばかり言うのはあなたの悪い癖よ?もうちょっとポジティブになりましょう?」
ルーカスは頭を少しかいて、施設に入っていった。
─鳥籠に囚われたまま…か。
その日の夕方、ルーカスは私を研究所に呼び出した。
「どうしたの?私に用があるなんて、珍しいじゃない。」
「これから、新たな実験を行うんだ。僕が目指す人類の救済とは少し違うけれど…。」
「…不安なのね。」
最初のコメントを投稿しよう!