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僕が彼女に強く興味を持ったのは半年前の放課後のことだった。
僕が教室に残って一人課題を進めていると、汗をかいた彼女が教室へと入ってきた。彼女は陸上部であるから、ゴールデンウィークの競技大会へ向けて練習していたのだろう。
僕はクラスメイトであれ、誰とも話すことはない。仲良くする必要を感じないし、興味もなかった。友達がいないことに焦りや寂しさを感じるタイプでもない。教室に彼女が現れようが、僕には関係のないことであった。
彼女もまた、そんな僕に興味などないのだろう、僕に声をかけることはしなかった。彼女は教室に置き忘れた制汗剤をとりにきたようで、一人座って課題を続ける僕のすぐ横を歩いて通り過ぎた。
その時、彼女の汗の一粒が、僕の頬に飛ぶ。そして通り過ぎた彼女の汗の匂いが僕の嗅覚を刺激した。
彼女の汗を感じた僕は頭がくらくらとして、そうしてそこから先の記憶はない。気付いた時には家のベッドの上だった。
ちなみに課題はなぜかしっかりと終わっていた。僕は無意識ながら頑張ったようだ。
僕はベッドの上であの出来事を思い返した。彼女の汗が僕の肌に。そして気体として僕の鼻の中へ。彼女の汗が、僕の細胞に染み込んだ。そう意識した時、僕は言い表せない高揚感に包まれた。そしてそれは次第に、安心感へと変わっていった。
そうか。僕と彼女はきっと、元々同一の生き物だったのだ。遥か昔に命を落とした一つの生き物。その魂が、僕と彼女の二つに分かれて今を生きている。そうに違いない。ならば、僕と彼女は再び一つになるべきだ。
そう確信した半年前の僕。同時に僕は決心した。彼女を、彼女の全てを僕に取り入れよう。彼女の細胞を、食べることで。
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