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「じゃなくてー。竜王からの書簡の件ですよ」
部下は仕方ない、という風に立ち上がった。上司はそうじゃないんだけどなぁと思ったが、口にしなかった。
玉座の彼はため息を一つついて、同じように立ち上がる。立位を取ると猫背であるが結構な身長だ。松明の明かりを背に、そのシルエットを際立たせると、ゆるくウェーブのかかった黒髪に、はっきりとは見えないが頭蓋骨の形とは違う何かが重なっている。
「あー、やっぱり俺が行くしかないかなぁ」
「あ、そうしたら一度竜王んとこ、寄ってやってくださいよ。ほら、孫ができたって言ってたじゃないですか」
「そうだな。久しぶりにアレクシアの顔も見ていこう」
「うわー、よく人の嫁さんにそういうこと言えますねー。やっぱ違うわー。人の上に立つ人って凡人じゃねぇわー」
「ほんと、お前、宰相っていう自覚をだね」
「自覚してまーっす」
この空間からどうやったら、こんな軽い空気が生まれるのだろうか。
「宰相っていう自覚をもって準備に取り掛かりまーっす」
部下はおどけた風に一礼して、謁見の間から出て行った。
静寂に帰った空間に大きなため息が響いていた。
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