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目の前には首のない騎士。兜を左手に抱えて、ぽっかり空いた首のなかは真っ暗である。
「ちょっとブロイ、屈んでよ!中が見えないでしょ」
「も、モミジさま、あっ、や、ああ、そんな、やめて」
モミジは竜王の住む大きなお城で蝶よ花よと育てられて、5歳になっていた。祖母が世話役にと作り出した動く鎧のブロイは、デュラハンをモデルに作られている。常に兜を横に持ち、中身は空洞だ。
モミジは鎧によじ登り、その中を覗こうとしていた。
「モミジちゃん、やめようよ、怒られちゃうよ」
側で困ったように忠告しているのは、エイミ。モミジより1歳下の4歳だ。ジャックとクリスタリアの息子である。竜族の血が濃いらしく、手の甲に緑色の鱗が見えている。本人はそれがコンプレックスであるようで、夏でも長袖を着ていた。
「だって、中身ないのに動くんだよ!気になるじゃん!」
モミジはブロイの肩に足をかけ、上半身を穴の中に押し込みながら言った。声が反響して、籠った。ブロイは落としてはならないと、ガシャンと膝をつく。が、その拍子にするりと中へ落ちてしまった。ガシャラシャラと金属音がけたたましい。
「モミジ様?!」
「モミジちゃん!!」
「いったぁぁ」
二人の呼びかけに、一言で返す。モミジが上を見ると、城の天井が丸く切り取られていた。中は狭くて身動きがとりづらい。何とか立ち上がろうと手足をあちこちに動かしてみるが、すっかりはまってしまって思うようにいかない。
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