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ブロイはおろおろしながら、エイミを抱き上げて顔を拭いてやる。
「と、とりあえず着替えて朝ご飯を頂きましょう。その間にここは片づけておきますから。ぬいぐるみも探しておきます」
「ぬいぐるみじゃなぁいぃぃ!うさぎちゃんー!」
「あ、あ、はい、うさぎちゃんですねー」
泣き半分怒り半分で訂正を入れるあたり、彼には相当大事なものらしい。
この時、モミジの気持ちは痛んだかどうか。彼女は何食わぬ顔で着替えを済ませ、朝食を取りに行った。ヘタレたクッションをクローゼットに隠して。
エイミは朝食が済んでもずっと落ち込んでいて、心ここにあらず、といった感じだった。ブロイが部屋を探してももちろん出てくるわけでもなく、新しいうさぎを用意すると言われても納得しなかった。
「いつまで落ち込んでるの、一緒に遊ぼうよ」
中庭でボールを持て余しつつ、モミジが声をかけるが、エイミは隅のほうで丸くうずくまったまま黙っていた。ブロイも空気の重さに耐えかねている。わずか4歳児がこんなに重たい雰囲気を醸し出すとは。
「エイミ様にとって、うさぎちゃん?はとっても大事なものだったんでしょうねぇ」
「なにそれ、よくわかんない。だってぬいぐるみでしょ?同じようなのたくさんあるじゃん」
「ちがう!うさぎちゃんはうさぎちゃんなの!だって、あれはママが」
ママが、と言って彼の目はまたゆらゆらと涙をため始めて、零れるまですぐだった。ボロボロと大粒の涙が落ちては地面をたたいた。彼の雰囲気に、二人は息をのむ。
「ママが、寂しくないようにって、作って、くれて。大事にするって約束して。うぅぅぅ」
中庭の壁に鳴き声は反響してうるさいくらいだった。
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