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「だから当時は早く卒業したかった」 でもね、と彼女はまた切なそうな横顔になる。 そして彼女は明るめに自分の事を話し出した。 「4年生の冬に事故に遭ってね、 命は助かったけど右手に麻痺が残ったの」 決して暗くならないように彼女は言った。 そうしてくれてるのが隣から伝わってくるのだ。 翔悟は だから右手を と心の中で思う。 「それを彼に告げたらなんて言われたと思う?」 疑問形だったが彼女が答えを求めているわけではないと翔悟はすぐに理解する。 「『守れない俺は君に相応しくない』って言ったのよ」 落ち着いた様子の横顔は少しすっきりしていた。 「でも事故と、その彼は関係無いんですよね」 彼女が静かに顎を引いた。 そして遠くを見るような目をした。 「彼はしっかり家事ができる人が良かったのよ。 そうはっきり言わない所が最後まで『彼』だった」 翔悟は理解出来なかった。 家事が出来れば誰でもいいのかとその彼とやらに 問いたくなった。 確かに翔悟は彼女の事を 全然 知れていない。 だがひとつだけは言える。 こんなにも優しく柔らかに自然と溶け合える女性(ひと)は中々いない。 それがどれだけ魅力的な事か。 その魅力に気づけないなんて、 事故だけを理由に あっさりと手放すなんて 翔悟には考えられなかった。
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