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「もう2年も前の事よ」 そして『呆れちゃう』と肩で一息ついて笑った。 「私の見る夢はね、いつもここなの」 「...夢?」 えぇ と彼女が頷く。 「どんな夢だか聞いてもいいですか」 すると少しの間 翔悟を優しく見つめ また彼女は前を向く。 麦わら帽子の影に隠れた鼻筋が 翔悟の目を無意識に奪う。 「私がここで手を伸ばしているの、 右手をこんなふうに」 ゆっくりと彼女の右手が川に向かって動く。 伸ばしきれない指先は微かに震えていた。 「夢だとね 震えないのよ。 事故の事なんて ひとつも出てこない」 切なそうに眉を下げる。 その表情からは彼女の強さが表れていた。 「そのまま ずっと伸ばしてると 誰かが私の手を握ってくる。 知っている手の感触で、懐かしい手よ」 微笑むその目は幸せそうだった。 きっと その握ってくる相手は例の彼なのだろう。 人が見る夢は願望だと世間ではよく言う。 彼女は2年経った今でも彼を夢で見るのだ。 もう過去の事であろうと彼女は愛していたのだ。 その事実は変わらない。 そんなにも人を愛した経験のある彼女はやはり 翔悟の何倍も前を歩く人なのだ。
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