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「それで朝起きるとここに来たくなる」
右手がゆっくりと空気に触れながら
胸の位置に戻る。
翔悟はずっと話している姿を見守り
時々 相槌を打っていた。
ただそれだけなのに
これのどこが聞き上手だと言うのか
やはりよく分からない。
「川に来て、いつも誰もいなくて、もちろん
私の手を握ってくれる人もいない」
彼女がふわりと翔悟を見る。
翔悟は急な視線に、気を紛らわすよう鼻をすすった。
「でも今日は違った」
そう言いながら彼女は麦わら帽子のつばを
優しくきゅっと握る。
「この帽子のお陰かな?それとも風?
あなたみたいな素敵な人とお話が出来たのは」
思わず深く息を吸った。
紛れもなく今、翔悟の胸は大きく脈を打ち
一瞬時が止まったかのような気がした。
そして、
『素敵』なのは あなたの方ですよ なんて
格好つけて言えたらいいなと少し思った。
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