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人がいると思ってなかったのだろう。
彼女は一瞬驚いたように薄く口を開けたが
すぐに頬を緩ませた。
「どうもありがとう」
20メートル先から柔らかい声が耳に届く。
初めて聞くその声はただ柔らかいだけでなく
水のように透明で、でも存在感のある
優しい強さを持った声だった。
翔悟は いえいえ だけの一言すら
喉を通らなかったため
首を横に振って彼女の元へかけていく。
その様子を見届けている彼女は変わらず
グーの形をした右手を胸に当てていた。
「どうぞ」
目の前の彼女に頑張って発せた言葉はこれだった。
まるでこれじゃウブな男じゃないかと
内心げんなりする。
すると彼女は『ありがとう』ともう一度言い
麦わら帽子を左手で受け取って
ゆっくりと頭に乗せた。
ふぅっと甘い花のような香りがした。
艶のあるチョコレート色の髪がなびいたからだ。
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