2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「まっことせんせ~」
「どうした?」
「先生、大好きです!」
「はいはい」
今日は卒業式。藤咲華も他の三年生と同じように胸にコサージュをつけ、先ほどの式でもらった卒業証書を手にしていた。
(はぁ…やっぱり真先生は手ごわいな…)
1年生の頃から生物の担当だった青柳真先生。初めて会ったときから好きだったから、華は3年生になって青柳先生がクラス担任になったのを機に毎日のようにアタックしていた。しかし、それは毎回玉砕。最初こそ「教師と生徒だから」と言って分かるように断ってくれたけれど、今ではさらっと流されるようになってしまった。
「もぉ~今日で卒業しちゃうから最後だったのに」
「はいはい、ほら、俺も挨拶しないといけないから」
「ぶぅ~」
不満そうにしながらも華は席に着く。
「華、また真先生にフラれたの?」
「フラれた~」
「ドンマイ てか、毎日よくやってたよ」
「はいはい、ありがと」
友達も真先生も華のいう「大好き」はふざけて言っていることだと思っているのだろう。
(はぁ…毎回本気だったのに…)
この一年間、休みの日は無理だったけど毎日好きと伝えてきた。
(それがよくなかったのかな…)
もう何が正解なのか分からない。
卒業したら大好きな真先生にはなかなか会えなくなる。学校に来なくなるからと言うこともあるけれど、華は東京の専門学校に進学することが決まったのだ。2週間後くらいには引っ越しして一人暮らしが始まる。
(両思いは無理でもせめてちゃんと伝えたかったな…)
重くならないようにあえて軽い口調で言ってはいるけれど、好きとふざけて言っているのではなく、本当に、心の底から好きと思って告白しているのだと分かってほしかった。
言葉にしても伝わらない思いってあるんだね。
卒業式でさんざん泣いたのにまた涙が滲んでくる。
「華、華、先生呼んでるよ?」
「ふぇ!?」
一人、感傷にひたっていると隣の席の優香が話しかけてくる。
「藤咲 俺のありがたーい話ちゃんと聞いてたのか?」
「えっ、き、聞いてたよ」
いや、全然聞いてなかった。全くこれっぽっちも
「だったら何話したか言えるよな?」
「うっ、聞いてなかったです…」
あははは
クラスのみんながどっと笑い出す。
(先生ひどいよ!)
最後の最後まで笑いものにしなくてもいいじゃないか!
華は顔を赤くする。涙なんて引っ込んでしまった。
最初のコメントを投稿しよう!