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「真先生?」
「ん?どうした?」
黙々とシールをはがしていた華は突然先生に話しかける。先生は驚くことなく返事をしてくれた。
「私ね、もうすぐ引っ越すんだ」
「そうだね、東京の第一志望受かったもんな~」
「うん、先生のおかげだよ」
「そんなことない 藤咲が一生懸命頑張ったからだよ」
第一志望の専門学校は筆記試験と面接だった。筆記試験はバカながらも夜遅くまで一生懸命勉強したのだ。しかし、面接の練習は一人ではできない。先生相手に何度も練習したからこそ無事に合格できたのだ。
「けど東京に行ったら、こんなふうに毎日は会えなくなっちゃうね…」
先生のことが本当に大好きだったから、告白に応えてもらえなくても毎日会えるだけでも幸せだったのに。
「ねぇ、真先生?」
「ん?」
「大好きだったよ」
真先生のことが本当に大好きだった。高校生活の中で一番青春したことと言ってもいいくらいに。
(けれど、もうこれでおしまいにしよう)
華は手にした最後の1つをプラスチックケースの中にしまう。
これで私の初恋は終わり。これ以上先生を困らせたくはないし、東京で新しい生活を始めればきっと諦めることもできるだろう。
(何年かしていい女になってやるんだから)
専門学校に行って、卒業して、働いて、新しい恋をして。先生もうらやむようないい女になって帰ってきてやる。その時に真先生が後悔しても遅いんだから!
華はうつむきながらそんなことを考える。諦めるとはいってもそんなにすぐに気持ちの整理がつくほど、華はまだ大人じゃない。実際にまた涙が溢れてしまいそうだ。
「『だった』ってなんで過去形なんだ?」
「もう高校生じゃなくなるんだもん そろそろ終わりにしようと思っただけ」
華は正面にいる先生を見ることができない。今はまだどんな表情をしていても傷ついてしまう自信がある。
「藤咲、今までごめんな…」
先生は謝る。
(なんで、謝るの!?)
私は謝って欲しくなんかない!それこそ完全に相手にされていなかったみたいで惨めな気持ちになる。
やめて、華は勢いよく顔をあげる。見上げれば、机に頬杖をついた真先生と視線が合った。
「藤咲 改めて、俺と付き合ってくれないか?」
ん…?俺…真先生と付き合う…?……!?
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