蛇の執念

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 私は声にならない悲鳴を上げた。そしてそのまま気を失った。なぜならカーテンの穴から見えたものは蛇の目ではなく、グチャグチャにつぶれた肉塊に埋もれた、人間の右目だったからだ。  これは後に聞いた話だが、ガキ大将とその子分たちは、突然気絶したわたしを大慌てで自宅まで運んでくれたらしい。だが、自宅へ戻って来たのは良いものの、それからのわたしは高い熱を出し、数日間も寝たきりになってしまった。  夢の中でわたしは、一匹の蛇になっていた。シュ、シューと息を吐き、ズルズルと床の上を這いずり回っていた。何者かから頭を何回も殴られて、頭蓋骨が砕ける痛みと、ひどい吐き気を味わった。ようやくわたしが悪夢から解放された時、枕元には両親とともに、見知らぬ老僧が座っていた。  話を聞くと、老僧はわたしたちが押し入ろうとした家の主だった。現在は別のところに住んでいるのだが、家の売却を委託している不動産屋から侵入未遂の出来事を聞き、ガキ大将どもにその時の様子を尋ねて、わたしの異変を知ったのだという。 「ひどく怖い思いをさせてしまったね。坊やを正気に戻すように、わしは昨日からずっとお経を唱えていたんだよ」  そう言うと、老僧はわたしの額に手を置き、ブツブツと何かを呟いた。そのおかげか、重い鉛を飲み込んだようなわたしの気分は、嘘のように軽くなった。 「うちの娘はね、もうだいぶ前に亡くなったんだ。以前は親の目から見てもきれいな娘だったのだが、死ぬ前は姿形が変わり果てていた。坊やはあの家で見ただろう。あんな風になっていたんだ。それからのわしは仏門に入って、娘と蛇を弔うことにしたんだよ」  老僧は暇を告げるため、深々とわたしの両親に頭を下げた。そしてわたしの方へ向き直ると、わたしの目をじっと見つめながら呟いた。 「ようやく蛇が離れてくれたから、これからあの家へ持って帰るよ。もう坊やに悪さはしないと思うけれど、正直なところ約束はできないんだ。なにしろ蛇は執念深いからね……」
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