宝物

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 「アキラちゃん、どうしてこんなものを持ってきたの?」  四年二組のクラス担任、藤木先生はさっきからうつむいたままの少女に優しく問いかける。  二人を隔てる机の上には、フタの壊れた空の虫かごが置かれている。  この日、四年二組の教室ではちょっとした騒動があった。  虫かごの中にいたハチが逃げ出した。それもオオスズメバチだ。そのため授業は一時中断され、先生がハチを追い出すまでに数分間、その後も泣き出してしまった生徒をなだめたりと、結局その授業は再開できなかった。  幸いなことにけがをした生徒はおらず、その日の授業はそれが最後だったため、藤木先生は副担任の山岡先生に任せてアキラと一対一で話をしている。  なぜなら、その虫かごを持ってきたのがこの少女、アキラだったからである。  「宝物って・・・」  アキラはうつむいたまま、それだけを口にしてまた黙ってしまった。  藤木先生は昨日のホームルームでこう言った。  「明日は自分の宝物を持ってきましょう。明日の授業ではそれを友達に紹介し会うので、思い入れのあるものがいいかな」と。  「でもアキラちゃん、先生はこうも言ったよね?食べ物や高価なもの、学校に持ってきてはいけないものは持ってこないようにって」  「・・・虫はアキラだけじゃないです。ハチは学校にもいます」  だから持ってきてはいけないものには当たらない、そう言いたいのだろう。  「でもね、アキラちゃん。ハチに刺されたら危ないでしょう?」  「・・・」  キーンコーンカーンコーン、とチャイムがなった。  沈黙している二人に対し、外が少し騒がしくなった。  「アキラちゃんはどうして、これが宝物だったの?女の子は皆、かわいいヘアゴムや文房具だったのに」  反省しているのか、考え込んでいる様子のアキラに、少し別の話題でもと思っての、何気ない一言だったのだろう。  しかし、アキラは顔を隠すように深くうつむいてしまった。  不審に思った先生が立ち上がって顔を覗き込むと、アキラは目に涙をためて、落ち込んだように唇を噛んでいた。  先生はぎょっとしたが、すぐに冷静になってアキラを少しずつなだめていく。
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