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アキラは少しの沈黙の後、ポツリポツリと話し始めた。
元々は仲の良い男子グループたちとの関係が原因だったようだ。
アキラは今時の子供、特に女の子には珍しい、虫が平気どころが虫が好きな女の子だった。それ故、女子同士よりも男子たちと遊ぶことが多かった。
しかし、最近では一部の男子が女の子のアキラがいることを嫌がり、男子グループの中に入れてもらえないことが度々あったらしい。
そこでアキラは、男子たちが驚くような虫を捕まえて、男子達の中に再び溶け込む切っ掛けにしたかった。そこまで計算しての事ではなかったようが、先生はそのように解釈した。
とはいえ、今の季節は春。蝶やバッタを捕まえても大して珍しくもない、虫の王様であるカブト虫もまだいない。
とにかく手当たり次第に捕まえていくと、虫かごの中からブンブンと音がした。中を見てみると、例のオオスズメバチが入っていた。
怖くなったアキラは、大慌てで男子達にどうすればいいかと聞きに行った。
すると男子達はアキラの心配を余所に、「スゲェ」だの「ヤバい」だのと騒ぎ始めた。
それを切っ掛けに、男子達との仲はまた元に戻ったという。
なるほどと思う反面、先生は先ほどの言葉を後悔していた。「女の子は皆」と言った自分の言葉は、彼女を傷つけたのではないかと。
「アキラちゃんの宝物は、とっても素敵なものだったんだね」
先生はそう言うのがやっとだった。
「うん。だからこれ、まだ見せてないみんなに見せて、また仲良くなろうって」
アキラにとって、あのハチは友達を友達に戻してくれる、魔法の宝物だったのだろう。宝物について語る今のアキラは目を輝かせ、先生をまっすぐに見つめている。
しかし、先生には先生として言わなければならないことがある。
「でもね、アキラちゃん。ハチには毒があるでしょう。もしもクラスの誰かが刺されたら、命に関わるかもしれないの。アキラちゃんはもう四年生だから、わかるよね?」
アキラは少しうつむいたが、すぐに顔を上げ「はい」と小さく返事をした。
その時、チャイムとは違う優しい音色が聞こえてきた。五時を知らせる音だった。
「もうこんな時間か。アキラちゃん、とにかく毒のある虫はむやみに捕まえたり持ってきたりしないように。」
「はい」
今度はややはっきりとした返事だった。
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