空き家

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 カビの匂いがつんと鼻をつきました。ドアの内側の取っ手には、埃がつもっていました。もう長いことだれも住んでいなかった様子です。僕は懐中電灯をつけて中を照らしました。土間にも真っ白いほこりが積もっていました。足あとひとつありません。  僕はもってきたスリッパをはいて、玄関を上がりました。  しかしどうしてこんなに暗いのでしょう。外はまだ昼過ぎだというのに。奥のドアを開けて中へ入りました。居間のようでした。テーブルの上にはマグカップが一つと、新聞紙がのっていました。白い、何の変哲もないマグカップです。新聞は、九年前の日付になっていました。その向こうに、食器棚がありました。引っ越し先に持っていけなかったのでしょうか、中の食器もそのままになっていました。右側に緑のカーテンがかかっていました。カーテンを開けると、やっと外の光が入ってきました。家の中の埃が、光にあたって宙を舞っていました。  その時です。ガシャンとものがおちる音がしました。僕は窓の外を見ました。草ぼうぼうの庭と、その先の林が見えるだけです。人影はありません。気のせいかと思ってキッチンの方へ行こうとしました。  ギャア、という悲鳴のような物音が聞こえました。二階からのようでした。誰かいるのでしょうか。こんな真っ暗な家の中に?     
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