空き家

3/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 床には僕が歩いて来た足跡しかありません。僕の背中の毛がぞわりと逆立ちました。こういうとき、人は不思議と逃げようとは考えないのです。それよりも、音の主が何なのか確かめてみたいと思いました。僕は居間を出て、廊下の右手にある階段をのぼりました。音をたてないように、一歩ずつ、慎重に。二階も真っ暗でした。懐中電灯の明りに、ドアが浮かびました。ガタンと中で音がしました。僕はドアをあけました。中を照らそうとすると、懐中電灯が消えました。スイッチを上下に動かしましたがつきません。何かがふわりと僕の頬をかすめました。僕は後じさりしようとして、つまづきました。よろけて床に座り込みました。ふと気づくと、肩に何かが当たっています。僕は身じろぎも出来ず、息を殺してそれが何なのか探ろうとしました。肌に感じる形から、その姿を想像します。やわらかく細長い、人の指のようでした。それが、ぐっと爪を立てて僕をつかみました。 「うわあああああああああ!!!!!」  僕は叫び声をあげて立ち上がり逃げようとしました。爪はさらに食い込んで僕を揺さぶりました。まるで逃がすまいとするように。僕は腕を振り回し無我夢中で出口を探しました。壁にぶつかり、何か物をちらかし、布にしがみつきました。それはカーテンだったのかタペストリーだったのか、ずるずると下へ落ちました。目の前がパッと明るくなりました。肩をつかんでいた手はすっと離れ、恐る恐る振り向いてももう何もいませんでした。僕は腰が抜けてしまって、その場にへたり込みました。  僕がぶつかって落とした木箱や本やらが床に散らばっていました。足跡もたくさんありましたが、僕以外のものは相変わらず無いのでした。     
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!