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空き家
ぼくは不動産のしごとをしています。土地の売り買いが主な仕事で、買ってほしいという土地があれば、実際に見にも行きます。
その日も、自分がもっている土地を買ってくれないかということで、五十代くらいの男性がやってきました。手首にはめた銀色の腕時計が目につく、いかにも金持ちといった感じの人でした。
男性が売りたいのは、丘の上にある三十坪ほどの土地でした。しかも、まだ家が建っているそうです。
「家付きなら、買い手はあるかもしれませんね」
ぼくは言いました。男性は苦笑しました。
「いや、私もね、父がそこを人に貸していたと聞いてはいるけど、今どうなっているかは知らないんだ」
「そうでしたか」
「家が使えそうになかったら、土地だけでもいい。なるべく早く見積もりをくれ」
男性は忙しい様子だったので、三日後にぼく一人で家を見に行くことにして、その日の商談は終わりました。
三日後、ぼくはその家に行きました。
二階建ての小さな家です。二階からは街の景色もよく見えるでしょう。薄い黄色の壁もかわいらしく、若い夫婦が住んでもよさそうな感じでした。
僕は男性から借りていた鍵をさして、玄関を開けました。
中は真っ暗でした。
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