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 私にはよく、「手」がみえる。私の見る手は、いつも壁や床から生えている。それは、生きている私たちのそれと全く同じ形で現れる。手は何かをつかむようにうごめく。ときには、通りかかった人の足をつかむこともある。多くの人は、つかまれても気づかない様子でそのまま行ってしまう。ときおり、躓く人もある。そういう人も、首を傾げて通り過ぎてしまう。見えているのは、私だけのようだ。  あるとき、私は自宅のあるマンションで、エレベータを待っていた。五階から四階へと降りてきたエレベータのドアが開くと、中に女性が立っていた。  長い金髪にニット帽をかぶり、丈の短いズボンからのぞくのは長い素足。壁にもたれてスマートフォンをいじっている。髪は染めているのか。いかにもギャルといった感じで、私の苦手な雰囲気だ。  けれど私が何よりも恐ろしかったのは、そのからだじゅう、壁から伸びた無数の手がしがみついていたことだ。  私はそのエレベータに乗ることが出来ず、そのままドアは閉まった。以来私はエレベータを使うことが出来なかった。その女性に会うこともなかった。  それから何日かあとだった。     
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