白い手

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 そのとき。 「おーい」  と、人の声がした。  私はまわりを見回した。浜に人影はなかった。松原の方に誰かいるのか? 「おーい」  再び声がした。男性のようだ。海の方から。  私は立ち上がって、波間をくまなく見渡した。人影は見えない。ただ、白い手のようなものが、水面から突き出していた。 「たすけてくれー」  声は手のところからしているようだった。わたしは手帳を砂浜において靴を脱ぎ、水の中に入った。高校まで水泳部だったので、泳ぎには自信がある。ためらいはなかった。 「おーい」  声は同じ調子で呼び続ける。わたしは手のそばまで泳いで行った。手だと思ったのは近くで見るとゴムの筒を数本束ねたもので、先端にはどれも穴が開いていた。 「おーい、たすけてくれー」  声は確かにその筒からしていた。筒は水面の下まで続いているが、その先は見えない。  私は呼んでみた。 「大丈夫ですか? 助けに来ましたよ」  その瞬間、私はぐっと水の中に引き込まれた。  右足に何かが巻きついている。柔らかい、けれど芯はある。すいつくような感じで、しっかりと私の足をつかんでいる。それが下へ下へと私を引っ張っていく。必死にもがいたが、相手の力の方が強かった。     
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