白い手

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 死ぬのだと思った。水面が遠ざかっていく。  死にたくないと思った。  私は胸ポケットを探った。ボールペンがあった。わたしはボールペンをつかむと、足に巻きつくものめがけて突き刺した。ぐにゃりとした手ごたえがあった。それは力が抜けたように離れて行き、私は浮上した。急いで浜に向かって泳いだ。陸にあがって振り向くと、あの筒はなくなっていて、波の間には何も見えなかった。足がずきずきといたんで、私はズボンのすそをめくってみた。タコのような吸盤の痕が、ぐるりと足首を巻いていた。吸盤のふちには爪が食い込んだような跡があって、ところどころ血がにじんでいた。  私は手帳を拾って車に戻り、近くの病院に向かった。  医者も不思議がっていた。けれど足が痛む以外特に症状はないので、タコだろうということで、消毒と包帯を巻かれて帰された。  数日で痛みは引き、今はもう痕もない。  あの日、私が出会ったものは、一体何だったのだろう。
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