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戦士の服が何度も引っ張られる。話している途中だというのに、気が気で話せない。
「分かったら服を引っ張るな。怖いかもしれないが、頑張ってくれ」
「え?」
僧侶は何が?と言いたげな顔で振り返る。戦士も振り返るが、僧侶と距離が開いていた。
手を伸ばしても届かない距離。しかも両手で杖を握っているため、戦士の服を引っ張ることなど不可能だった。
ならば、今も服を引っ張っている手は?
「……………」
『ォオ……客人…!』
真っ白で透明な女性が戦士の服にしがみ付いていた。ボロボロの服に、床まで伸びた黒い髪が恐怖をさらに駆り立てた。
「ヒィアアアアアアァァァァ!!!???」
「ちょっ!?」
情けない悲鳴を上げながら走り出す戦士。突然の出来事に幽霊に怯える暇がない。
全力疾走する戦士を僧侶は追い駆ける。戦士の背中にしがみ付いた幽霊は離れていない。
「この幽霊、足が速ぇよ!」
「あなたの体に掴まっているからですよ! 早く振り払ってください!」
「全然触れねぇ!」
「ですよね!」
何とか僧侶は戦士に追いつき、幽霊に向かって杖をかざす。魔法で幽霊を浄化させようとするが、
『あの客人、今日は何の御用で?』
「喋ったぁ!!!」
『そりゃ喋りますよ。幽霊ですから』
普通に会話を始める幽霊に僧侶は転ぶ。戦士だけが気を動転させていた。
戦士を落ち着かせるように幽霊は丁寧に喋る。何だこれは?とおかしな光景に僧侶は魔法を唱えることができない。
『なるほど。行方不明の方たちを探しにこの屋敷に』
「あ、ああ…アンタ、何か知らないか?」
『私も住み続けて長いですが、見てないですね。むしろ今、この体になってから初めて生きてる方に会いましたから』
幽霊と会話している光景に僧侶は何も言えずに佇んでいた。戦士は「そうか」と納得すると、
「じゃあこの通路から出られないか? 俺たちは閉じ込められているみたいで」
『ああ、それなら』
幽霊は振り返る。僧侶たちも振り返ると、そこには無数の青い火の玉が宙に浮いていた。
『先程から命を狙っている奴らを倒せば解放されると思いますよ』
「狙われているのか!?」
「アレはウィルオー・ウィスプ!?」
急いで戦士は剣を構え、僧侶は戦士の後ろに下がって杖を構える。未練を残した人の魂が具現化した炎の玉。人間を襲い、危険視されている。
だが、熟練の冒険者である彼らに取って敵では無かった。
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