噂のボロい屋敷

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噂のボロい屋敷

「ここが悪霊の棲む屋敷ですか…」 僧侶の女性が震えた声で呟く。彼女の目の前には木製の古びた屋敷があった。 人が住んでいる様子はなく、窓ガラスは割れてドアも半壊している。黒く曇った空に葉の落ちた木々に囲まれた屋敷はまさに『幽霊屋敷』と言われるに相応しかった。 「ああ。街の人たちにも被害が出ている。まだ死傷者は出ていないが、不安の種は潰しておけってギルドから依頼があってな」 頑丈な装備に身を包んだ屈強な体を持った戦士が頷いた。 この屋敷に訪れた者は悪霊に弄ばれ、最後は命を奪うと噂が立っている。確証はどこにもないが、興味本位で屋敷に行った人たちが行方不明になっているという。 「…行方不明の方たちが心配です」 「無事ならいいが、あまり期待しない方が良い」 経験と直感が告げている。戦士は首を横に振りながら屋敷へと踏み込もうとする。 僧侶は彼らの無事を祈りながら戦士の後をついて行った。 半壊した扉に触れると勝手に崩れた。大きな音に僧侶は「っひぃあ!?」と情けない声を出すが、戦士は辺りを警戒しながら広い玄関を見渡す。 「…今、女の悲鳴が聞こえなかったか? 近かったぞ」 「こ、怖いこと言わないでくださいよ! 早速悪霊が何か…?」 「ひぃあ!って」 「それ私ですね!?」 僧侶が驚きながら答えると戦士はニヤニヤとした顔で笑っている。僧侶をからかっていたのだと分かると、僧侶は頬を膨らませる。 「わ、悪かったって。そんなに怒るなよ」 「真面目にお願いします! 本当に危なかったら大変なことに…!」 「分かったから! 真面目に探索するから許せ! ほら、このまま左の通路から順番に…」 その時、戦士は異変に気付いた。振り向いた方向には道がなく、壁があったからだ。 玄関に入った時の記憶が正しければ、左右に通路があったはずだった。 それどころか辺りを見渡せば玄関の扉がどこにもない。前後に続く一本道に戦士と僧侶は立っていた。 「「……………」」 想像を越える異常な光景に顔色が悪くなる二人の冒険者。だが数々のダンジョンや修羅場を乗り越えて来た二人は落ち着いて状況を整理する。 「どういうわけか場所を移動されたようだな。幻覚の可能性もあるな」 「も、もう敵の罠にかかりましたよ…前と後ろ、どっちに歩きます?」 「とりあえず前でいいだろう。変化があるまで歩いて、何も変わらなかったら対策を考えて……」
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