暗やみ公園の合言葉

2/5
前へ
/5ページ
次へ
「暗やみ公園にお化けが出るって知ってるか……?」  最初は宏樹のそんな一言から始まった、僕らの夏の恐怖体験。 「うちの兄ちゃんがさあ、中学校で広まってる話だって教えてくれたんだけど。暗やみ公園ってあるじゃん。あそこにおっさんの霊が出るんだって。中学生がもう何人も見てるって。興味ない? 誰か今夜、一緒に見に行こうぜ……」  僕は塾に通っているから何度もその公園の前を通った事がある……暗くなってから。でもそんなものは見た事がない。だから宏樹の話を信用しなかった。僕が異論を唱える前に、同じ事をリーダーの雄一が言う。 「そりゃねえだろお前ー。俺んちあの公園の目の前だぜ。毎日見てるけどお化けなんか見た事ねえよ。昼間はじーさんばーさんがゲートボールしてさ。ああ、たまに浮浪者のおっさんが座ってるな。それと見間違えたんじゃねえの?」  他の仲間たちも頷いている。  暗やみ公園というのは高架になった道路の下の空き地を利用した広場で、ふた区画ほどがゲートボール場として利用されている。その隣の区画は市の放置自転車の集積場になっていて、だから要は日も当たらず空気も流れにくい。  だから『暗やみ公園』なんて名前がつけられて、僕たち小学生は暑い日なんかにそこに集まって、みんなでぼんやりゲームをしたりするんだ。雄一のお母さんが持って来てくれるアイスキャンディーを舐めて、たまに麦茶までもらったりして。 「違うんだよ雄一! おっさんの霊を見るには、合言葉が必要らしいんだ! それを言えばおっさんは出てくる。それで次の合言葉を教えてくるんだ。『次の合言葉はなんとかだよー……』つって!」  みんなに疑惑の目を向けられて、宏樹は若干憤慨気味に拳を握る。おっさん霊のセリフ部分は迫真の演技だ。でもやっぱり雄一は笑って、宏樹を馬鹿にするかのように言う。 「なんだそりゃ宏樹。合言葉言ったら出て来て、次の合言葉言ったら引っ込むって。何がしたいんだそのお化け。『妖怪合言葉言い』か? 逆に聞きたいわ合言葉。次の合言葉、お前知ってんの?」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加