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みんなに笑われ、宏樹は傷ついたような顔になる。小さな声で「知ってるよ」と言って、でもくるりと踵を返して校庭を走っていく。
「俺は合言葉知ってるよ! 今日の8時に暗やみ公園に行くから! お化け見たいやつは来い! 怖いやつは……来なくていいからな!」
宏樹はそんな事を言って、ランドセルを揺らして校門の外へと消えていく。残された僕たちはなんだか気まずいような気持ちになって……言葉少なに、家路へと急いだ。
時計は7時50分をさしている。僕は塾をあとにし、夜の街を歩いている。
繁華街を過ぎて住宅街に入る。もう10分も歩かないうちに家に着く。小腹が空いたな。パンは買って途中で食べたけど、あんなものじゃ夕食にならない。早く帰って、晩ごはんを食べたいな……。
高架が見えてきて、僕は昼間の宏樹の話を思い出す。『妖怪合言葉言い』。雄一のネーミングがおかしかった。でも確かにうまく特徴を掴んでいる。合言葉で出て来て次の合言葉を言ってから引っ込むなんて、そのお化けの存在意義は『合言葉を言う』事しかない。まさに『妖怪合言葉言い』と言う名が相応しい。
宏樹、いるのかな……。
もうすぐ暗やみ公園だ。時間も8時。僕は少し心配なような気持ちになってきて、少し早足になって暗やみ公園へと急ぐ。
「あっ、幸太だ! 結局幸太も来たのか。なんだ、みんなホントはお化けが見たかったんじゃないか! ははっ、全員揃ったよ。じゃ、早速合言葉、言ってみようか!」
暗やみ公園に着いてみると……なんと僕たちのグループは全員が集まっていた。仲良しの6人組。リーダーの雄一はまあ待て! と言って宏樹を止める。
「はっきりさせとくけど、俺は別にお前の話を信じた訳じゃないからな。家が真ん前だから出て来ただけだ。幸太だって、塾帰りだろ?」
「う、うん、まあ……。宏樹が心配になってっていうのもあるけど。ここは本当に浮浪者や酔っ払いがいる場所だから、あんまり夜に近づくのは良くないよ。痴漢も出るし、昔殺人事件があったって話も聞いた。だから、やるならやって早く帰ろう……」
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