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「どうした? 何があった? 大丈夫か!」
「――もう、どーでもいいゼ」
「は?」
戦士はごろりと仰向けになると、大きなあくびをしました。
「あんなコドモが相手じゃ、オレさまの魔剣も萎エ萎エだゼ」
「な、何を言ってるんだ! あんなんでも、魔力がすごいんだろ?」
「そうよ相手は魔王よ油断が死を招くと知りなさいムニャムニャ」
巫女は、いつのまにか寝袋の中で目を閉じていました。
「寝言かよ! 起きろ! 死ぬぞ!」
「嫌よ、面倒くさい。あとの事はどーでもいいわよ……」
巫女はミノムシのように寝袋の奥に引っこんでいきます。
「どうしたんだよ! 俺たちが魔王を倒さなきゃ、人類は滅亡してしまうんだぞ。なのに……クッ」
がくり、と勇者が床に膝をつきました。
<感染>がはじまったようです。
「お、おかしい、なぜ立ち上がれない? 貴様、何をした?」
勇者の視線の先には、うとうととまどろむ魔王様がおわします。ひたすらに愛らしい、妖しい、我が君が。
「俺は貴様を、魔王を倒すために、人類を守るために、世界を救うために、やっとここまで来たんだ。ここで挫けたらどうなる?」
勇者は突き立てた剣にすがりつき、うわごとのように つぶやいています。
「今までの努力は? 俺を信じてくれた人たちは? この旅のために捨てたものは? ――勇者になんかなりたくなかった。世界の命運なんてどうでもよかった。だけど、みんなを守るために。押し付けられたことでも、それでも俺は……!」
わたくしは勇者の耳に囁きます。脳髄にそろりと絡みつく、悪魔の声で。
「よくがんばられましたね。少しお休みになられては?」
「そうだな……もう、どーでも……」
勇者はゆっくりとその場に崩れ落ちました。先ほどの険しい顔が嘘のような、穏やかな寝息をたてて。
わたくしは飛竜を呼び出すと、勇者どもをその背に乗せました。勇者どもは億劫そうにうめくだけ。されるがままになっています。
「くれぐれも傷をつけぬよう、生きたまま地上へと送り届けるのですよ。人間の多い、発見されやすいところに降ろすのです」
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