ねんねこ魔王は最強です。

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ねんねこ魔王は最強です。

 異界の空に浮かぶ魔王城。  勇者どもがその扉を開いたのは、魔王さまのねんねこの支度が整った時のことでございました。 「魔王め、貴様は俺が倒す!」  若き勇者が剣をつきつけたのは、禍々しき山羊の角を生やした男。  すなわち、わたくしです。 「わたくしはギリアム、魔王さまにお仕えする者です。魔王さまは、こちらにおわすお方にございます」  勇者は慌てて剣の向きを玉座へと変え――そして、目を見開きます。  無理もありません。  魔王さまは人間の童女の姿をしておられます。  丸い耳つきのナイトキャップ。クマさん柄のパジャマに、フワフワの肉球スリッパ。  魔王さまは小首をかしげ、おめめをしょぼしょぼさせておっしゃいました。 「ねんねこ、するのぅ」  どうです! この悪魔的な可愛いさに、勇者もビックリ―― 「そのチビが魔王だぁ? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!」  ――したわけではなさそうです。 「本当よ、勇者。その子供、とんでもない量の魔力を垂れ流しているわ。息苦しいくらい」 「あア。オレさまの魔剣もビンビンだゼ」  勇者の仲間の巫女と戦士が、あえぐように言います。 「こんな姿でも油断はできないって事か。おい、魔王。なぜ人間界を侵略しようとする? 貴様の望みは何だ、答えろ!」  んー、と魔王さまは顔をゴシゴシします。 「んとねぇ。ねんねこしたいのぅ」 「その『ねんねこ』ってのは何だ? ……まさか『寝る』ってことか?」 「そうよぉ。きょうはずーっとねんねこしてて、おきて、おやつ食びたの」 「魔王さまはプリンを召し上がられました」 「ん! おいしかったあ。そいで、ばんごはん食びて、おなかポンポン。また、ねんねこするのっ」  勇者どもは、戸惑ったように顔を見合わせました。 「羨ましい生活ね……」 「あア。オレさまの魔剣もギンギンだゼ」  わたくしは咳ばらいを一つ。 「勇者どの、魔王さまもこうおっしゃっておいでですので、出直して来られてはいかがです?」 「ふっざけんなああああ!」  勇者は顔を真っ赤にして叫びます。 「乳幼児みたいな優雅な生活しやがって! 俺たちは貴様を倒すために死力を尽くして来たんだ! 少しは真剣に――」  ガシャン!  金属が床を叩く音が、勇者の口上を遮ります。  戦士が剣を取り落とし、突然に倒れたのです。
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