金の斧と銀の斧 夜中のお漬物

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──追記ですが。 これは自分が病気になって、ふと思うことですが。 本当に、お爺ちゃん……祖父は本当にあの夜、お漬物が食べたかったんだろうか。 そんなことを考えるのです。 ワタシが小学生当時とはいえ、少しタクシーを使えば近くにコンビニくらいあったでしょう。 深夜でなければ、病院の購買でこっそり買って来ることも出来た気がします。 どうして、祖父はわざわざ深夜に家の漬物を指名したんだろう。 殆どの病院には、面会時間があります。 深夜でも祖母が付き添い出来たとしたら、それは余程病状が悪くなっていたのでしょう。 恐らく結構な苦痛で、祖父は祖母に長時間付き添われても、構っていられる状態じゃなかったのではないでしょうか。 オレ今とてもそんな状況じゃないんだよね……。 けれど直接言えば、残された家族はきっと何年もそのことを気にして悲しむのではないか。 だから用事を言付けて、少しの間席を外させたんじゃないだろうか。 恐らく祖母も、この状態で何か食べたいと言えば、さすがに断れないだろう。 そして、もしかしたら祖母の方も、祖父からそんな雰囲気を感じ取っていたのかも。 ちょっと、そんな風に思ったりもします。 分かりません。 実際は、本当にお漬物が食べたくなったのかも。 小さな頃のことで、ワタシも聞いた話を正確に覚えていない可能性もあります。 でも、そんな風に考えるほど、情に厚い、優しく少々短気な祖父でした。 被虐待児のワタシには実の親以上に親らしい人で、今でもそんな祖母と祖父に短い間でしたが育てて貰ったのは人生で一番の誇りです。 ルミナル、ステージ2b。 幸運なことに、再起可能な症状だったワタシには、まだ見たことのないものを見て旅立った二人。 派手さはなく平凡でも、実際の人の絆というものはどんなドラマより、時に意外なほど奥が深く味わい深い。 なんだか、そんな気がしてきました。
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