ダイアリー〈6〉

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「この子は雷が苦手なもので..それじゃあ、失礼します」 デイビッドは言葉こそ穏やかに話していたが、表情にはこの前のような表向きの笑顔は無く、寧ろジュディスから見れば彼の目には鋭ささえ感じた..ウィリアムにはその視線を感じたかは分からないが明らかにデイビッドはウィリアムにいい感情を持っているようには見えなかった。 デイビッドはジュディスを抱き寄せ、雨に濡れないように一つの傘で玄関まで急いだ。 家の中に入るとやっと落ち着く事ができた。 「..パパありがとう」 デイビッドは小さく頷いてから、表情を曇らせ 「これからは今日みたいに帰れない時は俺に連絡するんだ、迎えに行ける時は行くから。駄目ならタクシーで帰って来い、クレジットカード渡してあるだろ」 「..うん」 ジュディスは小さく返事をした。 「あのハリスって男はお前に気があるのか」 デイビッドは少し苛立ちを見せながら、濡れた髪をバサバサと払った。 「ないよ!ただ送って貰っただけだから..」 「それじゃあ、お前は気があるのか?」 ジュディスは一瞬ドキリとしたが、動揺したら感ずかれそうで怖かった...相手は人の心を読むプロなのだ。 「ある訳ないでしょ、ただの大学の先生よ」 表情、声、全てに注意を払いながら必死に何でもないような風に取り繕った。 デイビッドはじっと彼女を見ていたが、それがまるで嘘発見器にでもかけられているようだった_しかしやっと口許が(ほころ)び笑みを浮かべると「悪かった、雨で濡れただろ?シャワーを浴びてくるといい」と先程の緊迫感はなくなった。 今夜はケイティは夜勤で不在なので二人で夕食を食べ、いつもの様にデイビッドとケイティの寝室で二人は身体を重ねた... ずっと鳴り響いていた雷雨もいつの間にか止み、外ではどこかでぽたぽたと雨水が垂れている音や虫の声が聞こえた。 静かな夜だった___ 隣で眠っているデイビッドを見ながら、彼女は夕方の事を思い出していた。 久しぶりに垣間見たデイビッドの鋭い表情..ジュディスは暗示から解けたように今目の前にいるのは暴力を奮って力で自分を支配した男だと記憶が蘇った。 その途端、急に涙が込み上げ身体が小刻みに震え出した... 必死に堪えたが、隣で寝ていたデイビッドが目を覚ましジュディスの異変に気付き驚いた。 彼は起き上がり、横のナイトテーブルのスタンドの明かりを付けると部屋が橙色の明かりでぼんやりと明るくなった。
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