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もはや、ハルは自分の中に生じた敗北感をごまかしきることはできなかった。
自分が一番過ごしやすい季節だという自負があった。それでもほんの数か月しか存在できないことが納得できなかった。
だから、人々を味方に付けたつもりになって正当化して、運命にあらがえる気でいた。
しかし、そんなおごりは、ナツにきれいさっぱり打ち砕かれてしまったのだ。
存在をほとんど失い、また長い眠りに落ちようとするハルにナツは声を掛ける。
「季節にもそれぞれ違った良さがあるってことだ、覚えておけ」
「…そんなこと……分かってたはずなんだがな」
それでもなお、ハルは毎年自分の席を奪いにくるナツの事が好きにはなれないのだ。
「……こればっかりは理屈じゃねえ。来年こそそのムカつく笑い顔に一発ぶちかましてやるから覚えとけ」
その言葉を最後に春は終わりを告げ、夏の季節がやってくる。
暑くて過ごしにくくても、みんなが――ナツを嫌うハルですら、笑顔になれるような楽しい夏が。
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