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海、山、夏祭りに花火大会、バーベキューやキャンプ。プールや川、水辺での水遊び。無邪気に豪快に笑うナツから溢れるは、皆の楽しむような声と音。
ハルは知っていたはずだった。自分の存在と違い、夏は確かに過ごしやすいとは言い難い気候ではあるが、誰からも求められていないかと問われればそうではない。
「…くっ!だがそれでも!!夏の暑さに対しては長所などあるわけが――」
少しずつ存在が失われていく感覚がありながらも、ハルはあがこうと叫ぶ。
そして、その叫びは、先までの楽しげな喧騒が嘘であるかのような静寂に溶け込んだ。
――リン♪
静寂に言葉を飲み込んだハルの耳に静かな鈴の音が響き、肌にやさしい風を感じる。今まで、嫌悪感ばかりだった熱気を取り払うように風がハルを撫でていく。
「――これが、夏の風だというのか」
ハルは目の前で、静かに笑うナツに問いかける。
「夏の納涼も風物詩だ。これを味わえるのは暑い夏だけだぜ」
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