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一ヶ月後。
別荘の使用人達が寝静まった深夜。
耐え切れなくなった私は唯一、一人になれるタイミングを見計らって脱走を試みた。
私の部屋は二階。
窓を開けてバルコニーの柵にカーテンを結び付けると、それを必死に掴んで下まで降りる。
結構な距離があるが、不思議とこの時は恐怖を感じなかった。
おそらく”この場から逃げたい”という気持ちの方が勝っていたのだろう。
何とか地面に足が着き、ホッと一息。
しかし、安心してはいられない。
警備の者に気付かれたら、すぐに連れ戻されてしまう。
逃げなきゃ……!
私は走った。
見慣れない場所、知らない土地。
何処に何があるのか。
どっちに行ったらいいのかも、分からない。
気持ちばかりが焦って今にも縺れてしまいそうな足で走る、暗い闇、辺りには深い森……。
小さな虫の鳴き声や、鳥の羽音さえも、聞こえてくる度にビクビクとしてしまう。
でもーー。
恐怖を抑え込んで、走っても、走っても、走っても……。
瞳に映るのは、見た事ない景色ばかり。
逃げられない。
行く所も、ない。
足を進める毎に湧き上がってくるのは、希望ではなく絶望という名の感情。
分かってた。
こんな事しても無駄だって、分かってた。
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