第3章 恋と知りて踏み出す歩み

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チックタック、チックタック… 秒針の進む音が室内に響き、やたら大きく聞こえる。 結局私たちは古い本の匂いに包まれ、瀧河古書堂で勉強していた。 最初は渋々やり始めた美和も、今は集中して目の前の問題に取り組んでいる。 「んー、どうしたの?」 私が現代文の解答が不正解の理由がわからず、フリーズしていると、知己さんが声をかけてきてくれた。 「ああ、現代文はね、まず文章にマークをしていくのがポイントなんだ」 そう言いながら、知己さんは私のテキストに次々と、丸や三角に四角、線や矢印を書き込んでいく。 それらを書いていく知己さんの指は細長い。ただ細いといっても華奢という意味でなく、どことなく力強さも感じられる指である。そんな知己さんの指先が動くのをじっと見つめ、私は教えてもらっているという自分の立場をすっかり忘れていた。
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