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「アークには馬車のなかで食べられる菓子などあった方がよいでしょうか」
「そうねえ…いいえ、移動時間の心配までしなくていいわ。報告書を読むつもりだから」
「承知しました。ですが揺れる馬車で細かい文字を読んでいて、酔いませんか?」
「うーん、どうかしら。そういえば移動中に何かを読むことってなかったから…酔うかしら?」
「寝台付きの馬車ですから、横になって休むこともできます」
「そうね。気分が悪くなるようなら、寝ることにするわ」
そう言って、アークは手元の書類に目を落とした。
セレンはその様子を目の端に置きながら、自分の手帳を確認した。
そこには、今回視察するに当たって、特に注意すべき事柄を書き留めてある。
日帰りのレグノリア区の視察には行ったことがあるので、その要領で目を配ればよいだろう。
ほかにできることはないだろうか。
例えば休日はどのように過ごされるだろうか?
ふとそう思って、セレンはアークを見た。
「あの、アーク。休日はどのように過ごされますか?」
アークは書類を読むのを中断して、首を傾げた。
「休日?そういえば予定表には休日が組んであったわね。気にも留めてなかったけど、宿でのんびりするのも手持ち無沙汰だし、出掛けようかしら。でもそんなことまで気を回させるのは機警隊に気の毒ね…」
セレンは急いで言った。
「そんなこと、考えないでください。アークの望みなら、機警隊の皆も叶えたいと思うはずです。休日は2日ずつありますから、1日は休んだ方が良くても、1日は何か息抜きになるようなことを考えます」
そう言われて、アークはセレンを見た。
まっすぐに見返してくる目は、懸命に何かを…アークの意に沿いたいという思いを訴えているようだった。
アークはほんのり頬を染めて、視線を落とした。
役目だというだけでなく、自分のことを思ってもらえていることが感じられて、面映ゆかった。
「ええ…そうね。そうしましょう。ありがとう」
「そんな。当然の配慮です。今になって気付くなんて…でも考える時間はまだありますから、機警隊の皆にも相談して、良い場所をご紹介します」
アークは思い出して言った。
「ああ、行ってみたいなと思うところもあるのよ。例えば、レシェルス区にある源流。ルークたちが行ったところなのだけれど、壮観だったらしいわ。あと、ボルーネ区の牧場も、手作り体験なんかをしてみたいわ」
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