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片手では無理だ。
両手を添えて剣を持ち上げる。
その動きの流れのまま、右肩の上まで刀身を上げる。
「それ何のつもりだよ?
コスプレってやつか?」
チンピラはまるで警戒する素振りもせずに歩いてくる。
いや、言葉とは裏腹に顔は引き攣っている。
それでも何かに吸い寄せられるように足は止まらない。
〈今です。振り下ろしてください〉
画面も見ていないのに、なぜかアプリが指示を出したことが分かった。
僕は剣を一気に振り下ろす。
斬ろうなんて気持ちがあったわけではない。
剣を振ることで、何か魔法の力が働くんじゃないだろうかという、曖昧な期待だけがあった。
だが期待通りの結果が訪れることはなかった。
振り下ろした剣先はチンピラの左肩にあたり、そこから斜め下にむかって、皮膚と肉と骨を切り裂いた。
いわゆる袈裟斬りという形だ。
柄を握りしめた手には、コツコツコツコツと硬いものを切った感触が伝わっていた。
一瞬遅れて、爆ぜたように大量の血が噴き出した。
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