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レベル!? レベルってなんだ?
そんなことはどうでもいいから、この惨状をどうにかしてくれ。
剣を放り出して、スマホを手に取る。
倒れた椅子の金属の足に当たってから床に落ちた剣は、抗議の叫びのような金属音を響かせたが、けっきょくそれが断末魔となった。
糸がほつれるかのようにちりちりと、刃の先、鍔の端、柄頭から剣は消滅していく。
剣とスマホの画面を交互に見る。
スマホの表示が切り替わった。
〈川島 悠真 Lv /2 ATK /3 MAT /1 INT /1 VIT /1 VIT /1 DEX / 1〉
僕の名前のあとに羅列されるアルファベットと数字。
ゲームをやらないためその意味までは分からないが、それらがいわゆるステータスを表しているということぐらいなら知っている。
だけど僕が見たいのはそんな情報じゃない。この現実をなかったことにするような何か。そんなつもりもなかった僕にこんなことをさせたのだから、その救済措置はあってしかるべきだろう。
剣身の輝きを最後に、剣はいまや完全に消えようとしていた。
「そうだ」
思わず漏れる言葉。
チンピラの死体も剣と同じように消えるのではないだろうか、と思いついたのだ。あるいはチンピラは最初から剣と同じような作り物だったのかも知れない。
無意識に見ないようにしていた死体へと目を落とす。
うつ伏せになったチンピラは変わらずそこにある。流れ出て溜まった血が、表面張力の厚みで床のパン屑や油汚れを綺麗にコーティングしている。
流れ出しているのは血だけではなかった。チンピラの腹の下に漏れ出た腸が、まるで生きているかのようにずるりと動いた。
それを目にしたところで、僕の視界は端からほつれ、灰色の砂になりはじめた。
自分が倒れていく感覚はあったが、その感覚ごと世界は砂嵐の中に埋もれていく。
やがて暗転。
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