ようこそ、メルヘンな人魚の国へ

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「にゃー! アレク様、好き! やっぱり、アレク様のところに戻ります」 「まっ、待て。我にはジーンが」 「たまにでいいから、頭ナデナデしてくださいね。それから、ギュッとして欲しいな。それとね、それとね……」 猫のように甘えるチェルシーが可愛い。 「分かったから、落ち着いてくれ。執事、助けろ」 「制限時間十秒前……ギリギリでしたね。アリス様、お疲れ様でした」 「セバスもご苦労様。休憩にしましょう」 魔王とは一切視線を合わさず、セバスはティータイムの準備を進める。 「チェシャ様と人魚の皆様も御一緒にどうぞ」 「私たちもいいの?」 香りの良いハーブティーと簡単な軽食が並べられ、魔王以外は平和なひと時を堪能した。 女子会のような雰囲気に、ハッタだけは居心地が悪そうだったが、人魚たちはお構いなしに話し続ける。 敵意が無いと分かり気を許した後は、セバスに本音も語ってくれた。 「やはり、アクアパークが嫌いと言う訳では無いのですね。アリス様、条件が揃ったので館長のパウル様を連れて参ります。ここでお待ち下さい」 「俺も行くよ。そろそろ、馬車に仕掛けた結界の効力が切れる頃だからな。ああ、そうだ。チェルシー、魔物を撤退させてくれ」 「分かったわ。宜しくね、チェシャ」 「僕が行くの? ああ、面倒だなあ……」 食べかけのクッキーをポケットに入れ、俯いたままトボトボと亜空間に消えて行く。自由気ままなチェシャと言えども姉には弱いらしい。 「では、少々お待ち下さい」 セバスとハッタはアクアパークへ向かい、パウルとヘイヤを連れて戻った。 「お前たち、こんな所にいたのか」 人魚は再び警戒心を抱き、湖の中から顔だけ出して様子を窺う。 「では、パウル様。彼女たちの前で宣言してください」 「うむ。話はセバスくんに聞いたよ。強引な真似をしてすまなかった。以前の活気を取り戻せるなら、喜んで条件を飲もう。賃金の支払いに休日など、他の従業員と同じ待遇で迎え入れる。君たちの好きなイケメンの従業員も入ったぞ。もう一度、アクアパークで一緒に働こう」 セバスはパウルの言葉を記憶の石に収め、人魚に渡した。
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