256人が本棚に入れています
本棚に追加
「見よ、ヘイヤ。歌や踊りを、みんな頑張っておるのう」
「凄い熱気だね。やっぱり、私には無理だなあ」
舞台に気を取られていると、突然背後から声を掛けられた。
「お前たち、何をしている?」
驚いて体が浮き上がる。振り返った先には、身だしなみの整った清潔感ある男が立っていた。
「あっ、えっと、その……」
「今日の舞台は休みだ。勝手に入っては困るな」
どうやら、ここの支配人らしい。
オロオロするヘイヤを押しのけ、メルは懇願する。
「わらわは、アイドルになりたいのじゃ。歌や踊りの練習を頑張るから、デビューさせてくれ」
「君が? 素質はあると思うけど、幼すぎる。五年後に来たまえ。それより、後ろにいるのは君のお姉さんか? 名前は?」
「わっ、私ですか? ヘイヤです。姉ではないですけど……」
「素質ありと判断する。さあ、こちらに来たまえ。共にアイドルを目指そう」
「えっ、ちょっ、ちょっと」
何故かヘイヤが連行されてしまった。無視されたメルは目に涙を浮かべ、外へ飛び出す。そして、偶然通り掛かったアリスとハッタに捕獲された。
「メル、どうしたの?」
「わらわは幼いから、アイドルはまだ早いって言われたのじゃ」
「それで泣いてるのね。そんなことで、落ち込む必要なんて無いわ。自分の言葉を思い出してみなさい。アイドルになる為の経験を積むと言ったでしょ? それから、あなたは幼いことを理由に、パートナーを探すとも言ったわね。それは、ここでしかできないことなの? 答えはノー。こんな狭いところで絶望するより、世界に飛び出すべきよ。経験は積めるし、パートナーだって必ず見つかるわ」
……
……
アリスがまともなことを言うあり得ない光景に、ハッタは硬直して言葉を失う。というよりは、石化しているようだ。
「でも、わらわは一人じゃ。どうすれば良いのか分からぬ」
「簡単よ、来なさい」
まだ泣き止まないメルの手を引き、ポセイドンの部下が経営している宿まで連れて行く。
そして、勢いよくドアを開けた。
最初のコメントを投稿しよう!