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「パン屋に行くって言ってたよな……おっ、いた」
パン屋の外で、アリスとメルが仲良くパンを食べていた。その光景は、本当の姉妹のような微笑ましさも感じられる。
「美味そうだな」
「あら、ハッタ。メルの件は片付いたの?」
「やっぱり、俺に面倒なことを押し付けようとしたのか。ポセイドンはこうなることを予想していたらしいから問題無かったぜ。それより、ヘイヤはどこだ?」
そう言えば、ヘイヤは連れて行かれたままだった。
「メルの話によると、養成所のオーナーに連れて行かれたみたいよ。そろそろ戻ってくるんじゃない?」
「そうだな。あいつの身体能力の低さは神がかっているから……って、噂をすれば戻ってきたみたいだ」
目を真っ赤にはらしたヘイヤが近づいてくる。
「歌も踊りも最低レベルだって……放り出されちゃった。ううっ……私はアイドルになりたいなんて……言ってないのに……」
相変わらず不幸な少女だ。
「ヘイヤよ、泣くでない。わらわも共に旅することとなったから、一緒に頑張ろうぞ」
しかも、自分より幼い少女に気を使わせている。
「本当なの? うん、一緒に頑張りましょ」
良くも悪くもお気楽なヘイヤは、すぐに笑顔を取り戻した。外見だけならトップアイドルを狙えるほど可愛いので、恥ずかしがり屋の性格と身体能力の低さが実に惜しい。
だが、アリスはあきらめていない。メルヘン好きの不思議ちゃんキャラで売り出そうと、日々模索しているようだ。
「アリス、そろそろセバスさんと合流しようぜ」
「そうね。港へ行ってみましょ」
港へ移動すると、魔王が腕を組み佇んでいた。何か悩んでいるのだろうか? 魔王の前には、大きな船とアヒルボートが浮いている。
「キタノ、どちらに乗るか悩んでいるのね」
「悩むか! この海の先にいる、ジーンの身を案じておったのだ」
「アヒルボートがオススメよ」
「頼むから、話を聞いてくれ」
放っておけば終わらないであろう茶番を繰り返していると、大きな船からセバスが顔を出す。
「アリス様、この船が南の離れ島に向かってくれるそうです。さあ、お乗りください」
既に準備は整っていた様で、アリスたちが乗り込むとすぐに出航した。
船が進む先は真っ黒な雲に覆われ、怪しい雰囲気を醸し出している。
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