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もう時間はほとんど残されていないのか、ゼニアオイの手が頭から滑り落ち頬で止まる。
しかしながら、それで問題はないだろう。子が母を殺すことでこの呪いは解き放たれる。
ならば後は、子の未来に母としての祈りを託すだけだ。
「ゼラニウム…私の愛しい坊や。どうか君に光を…どうか君に希望を…どうか坊やに愛を……」
最後の最後に母親らしい願いを残し、ゼニアオイの体から力が完全に消える。
二度目の死は愛する息子の腕の中で。
その事実に満足しているとでも言うように、彼女の顔は酷く穏やかなものなのだった。
「死んだのか…魔王が…俺の母親が……」
母の亡骸を抱き留めながらゼラニウムはポツリと呟く。
その心からは、彼女を必ず殺さなければならないという憎悪が綺麗さっぱりに消えていた。
だとしても、今までの人生全てを彼女を殺すために費やしてきた事実は消えない。
「ごめんなさい…お母さん。俺は……あなたの愛を信じられない」
故に少年は、母からの愛を受け取ることが出来ず、静かに涙を流すのだった。
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