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『お前を殺す者は―――お前の腹の中に居る息子だ』
さあ、どうする? お前は自分の息子を殺すか?
神がいやらしい笑みを浮かべながら尋ねてくるが、彼女の耳には全く届かなかった。
自らの子供が自分を殺す運命を背負って生まれてくる。
信じたくなどなかった。全ては神の戯言だとして無視していたかった。
だが、子どもが腹の中で大きくなる度に、そんな希望的観測は潰されていく。
「お腹の蹴り方がおかしい……完全に私に危害を加えようとしている」
通常の胎児とは違う、相手を壊すためにあらん限りの力での蹴り。
チート持ちの彼女でなければ、間違いなくダメージを負い、最低でも流産をしているだろう。
もはや疑いようがない。この子は間違いなく自分を殺す宿命を持った存在だ。
そもそもの話。チート特典で強化された彼女を殺せる者はこの世界には居ない。
だとしたら、彼女を殺すには最低でも同等の力を持った者が必要になる。
そうなれば条件絞られる。同じ転生者か、彼女の力を引き継げる子どもしか居ない。
もはや選択肢はない。子どもを殺さなければ、いずれ彼女を殺す存在へと成長するだろう。
「だとしても…私は―――この子を殺せない…ッ」
それを分かっていながら、ゼニアオイは息子を殺すという選択をしなかった。
理由は簡単。彼女が、母親だったから。
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