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「私は母親だ……どんなことがあってもこの子を守ってみせる…!」
自らが腹を痛めて産み落とす我が子を殺す覚悟など、彼女には到底できなかった。
男から憧れてまで女になったのだ。女性の象徴である子を産む行為を放棄など出来ない。
否、例え男のままだったとしても、自分の子を殺すことなど耐えられるわけがなかった。
「どうか愛がありますように…どうか希望がありますように…どうか光がありますように…ああ、愛しい我が子よ」
我が子に託すのは希望、未来、幸福。
ゼニアオイは考える。
息子が親殺しの大罪を背負う運命から逃れられないのならば、その運命を良いものにしようと。
「まずは、私が悪にならなければならない。この子が悪になるなど断じて許せないのだから。私には力はある。そうだな…魔王にでもなってみるとしよう。そうすれば、この子は気の狂った親殺しではなく、魔王を滅ぼす英雄だ」
きっと、神の引いた残酷なレールのゴール地点は決して変わらないのだろう。
しかし、その道のりを出来るだけ色鮮やかにしてやることはできる。
ゼニアオイが世界を脅かす魔王となれば、殺人も正当化されるはずだ。
そうと決まれば何も迷うことはない。
自分のためではなく、愛する我が子のために多くの人間を殺そう。
悪逆非道の限りを尽くし、世界に魔王の名を轟かせるのだ。
その果てに、成長した我が子に殺される終着点にたどり着けば、愛し子の未来は守られる。
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