7人が本棚に入れています
本棚に追加
「坊やが幸せになってくれれば……いや…坊やがいるならば私は幸せなのだよ」
「だったら、なんで魔王などに…ッ」
「ふふ…それも坊やのためさ。私は君に英雄になって欲しかった」
息子には神のことは伝えない。
仮に息子がそのことを知れば、全ての運命に操られていた事実に絶望するかもしれない。
ひょっとすると、神へと復讐を企てるかもしれない。
だが、それは避けねばならないことだ。本来、神は人間如きが触れられる存在ではない。最初に転生した時のように気まぐれに人に恵みを与え、気まぐれに悲劇をもたらす。そうして、出来る人の生き様をまさに演劇として楽しんでいるのだ。人間が神などに関わって良いことなど1つもない。だから、息子には秘密にしておく。
「悪を討つ正義の使者として、誰からも望まれ、誰よりも気高く、何者にも負けぬ。そんな存在となることを私は君に望んだ。そして、君は見事にそれに応えてみせた。母として誇りに思うよ……」
「俺は…俺は! そんなものを望んでいたわけじゃない…ッ! ただ、魔王を打倒さねば、殺さねばと、強迫観念にも似た感情に突き動かされて来ただけだ!」
血を吐くような息子の独白に、母は少しだけ悲しそうな顔をする。
全てはゼニアオイが転生をしたことが始まりだ。
しかし、転生をしなければ息子とは会えなかった。
ああ、人生とは実にままならないものだなと、彼女は内心で笑う。
「安心しなさい…可愛い坊や。それも…今日で終わりだ」
最初のコメントを投稿しよう!